米シンクタンク専門家ら、トランプ政権の301条関税発動を解説、各国・地域も反応示す
この発表の要点
- 米国通商代表部(USTR)が1974年通商法301条に基づき、日本を含む60カ国・地域からの輸入に10~12.5%の追加関税を賦課開始。
- シンクタンク専門家は、本措置が強制労働問題への対処よりもトランプ政権の関税政策の一環であるとの見解を示し、法的妥当性にも議論の余地がある。
- ブラジルは報復措置を示唆し、欧州委員会はEUの規則に言及するなど、各国・地域の反応は分かれている。
企業・自治体への影響
貿易関連企業、特に日本を含む60カ国・地域からの輸入を行う企業は、追加関税によるコスト増大やサプライチェーンの見直しを迫られる可能性があります。強制労働問題への対応が貿易措置の理由とされるため、企業のサプライチェーン管理部門やCSR部門は、人権デューデリジェンスの強化が求められます。また、国際的な貿易紛争の激化は、国際事業を展開する企業の経営戦略に影響を与える可能性があります。
対応すべきこと
- 自社が輸入している製品や部品が、今回の追加関税の対象となる国・地域からのものであるかを確認する。
- 追加関税が適用された場合のコスト増を試算し、価格戦略や調達先の見直しを検討する。
- サプライチェーンにおける強制労働リスクの評価と、人権デューデリジェンスの強化を推進する。
- 国際貿易政策の動向、特にブラジルやEUの今後の対応、WTO紛争解決手続きの進捗を継続的に監視する。
対象部門: 経営者 法務 経理 広報
対応期限:要確認
基本データ
| 企業・団体 | 日本貿易振興機構(JETRO) |
|---|---|
| 発表日 | 2026-07-31 |
| 分類 | 経済・産業トレンド |
発表された内容
2026年07月31日
米国通商代表部(USTR)は7月24日から、1974年通商法301条に基づき、日本を含む60カ国・地域からの輸入を対象に、10~12.5%の追加関税の賦課を開始した(2026年7月24日記事参照、注1)。首都ワシントンのシンクタンクなどに所属する専門家は、発動した関税措置の内容や今後の焦点を解説した。
本関税措置は、対象国・地域が強制労働産品の輸入を禁止していない、あるいは輸入を禁止するために効果的な措置を取っていないことを理由としたもの。一方で、多くの専門家は、今回の措置が強制労働問題への対処よりも、トランプ政権の関税政策や交渉戦略の手段として用いられているとの見解を示した。米戦略コンサルティングのブランズウィック・グループでシニア・アドバイザーを務めるクリストファー・パディラ氏は、ワシントン国際貿易協会(WITA)が7月24日に公開したポッドキャストで(注2)、スイスに対する追加関税率が12.5%と、一般的に強制労働のリスクが高いとされるバングラデシュやパキスタンに対する税率(10%)よりも高いことを挙げ、今回の措置が実態を反映していないと指摘した(注3)。
WITAのポッドキャストでは、法的妥当性の論点も取り上げた。アジア・ソサイエティ政策研究所で上級副所長を務めるウェンディ・カトラー氏は、301条がUSTRに与える権限の大きさや、USTRが同条で定められた調査プロセスを丁寧に実施したことから、同調査に基づく関税措置は訴訟が起こされたとしても維持される可能性があるとの見解を示した。一方、大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)で非常勤シニアフェローを務めるダニエル・ムラニー氏は、今回の301条調査について、本来、同条の下で想定された目的に沿っていないという見解も存在することを挙げ(注4)、その妥当性には議論の余地が残されていることを示した。
リバタリアン系シンクタンクのケイトー研究所でバイスプレジデントを務めるスコット・リンスコム氏は、7月24日に発表した論考で、トランプ政権が関税収入の確保を目的に、強制労働の使用という名目を不誠実に利用したと主張し、今後、米国が強制労働への対処を理由に措置を講じたとしても、当該措置への信用は損なわれると評価した。また、今回の措置を認めた場合、将来的に大統領が301条調査をあらゆる関税措置の発動理由に活用でき得るとし、議会が法律を改正し、大統領の権限を限定すべきと主張した。
各国・地域の反応はさまざま、ブラジルは報復も示唆
今回の関税措置の発動に対する各国・地域の反応は分かれた。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は7月23日、X(旧Twitter)で今回の措置を「保護主義的」な政策だと主張し、国内法に基づく報復措置の発動を示唆するとともに、WTOの紛争解決手続きを進める意向を示した。欧州委員会の広報担当官であるポーラ・ピニョ氏は7月24日に実施した記者会見で、「EUには既に強制労働に関する強固な規則が導入されている」と批判した。ただし、発動した関税率は、2025年7月の米EU間の合意内容(2025年7月29日記事参照)に「準拠している」と評価した(米通商専門誌「インサイドUSトレード」)。
(注1)301条は、外国の措置、政策、慣行が不合理または差別的で、米国の商業に負担や制限を与えるなどと調査を通じて判断された場合に、外国の製品に追加関税など輸入制限措置を講じる権限や、外国のサービスに料金や制限を課す権限などをUSTRに認めている。
(注2)同ポッドキャストは、7月24日に収録され、同日に公開されたもの。パネリストは、パディラ氏、カトラー氏、ムラニー氏。また、戦略国際問題研究所(CSIS)で非常勤シニア・アソシエイトを務めるジョセフ・デモンド氏がモデレーターとして参加した。
(注3)リンスコム氏も、ドナルド・トランプ大統領をはじめとする政権高官の発言を取り上げ、彼らが301条調査の調査結果に基づき、2026年2月に無効となった国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税を代替する輸入制限措置を発動することを、その調査前から示唆していたと指摘した。
(注4)具体的には、リベラル系シンクタンクであるプログレッシブ政策研究所(PPI)でバイスプレジデントを務めるエド・グレッサー氏の見解を挙げた。同氏は7月23日、USTRの301条関税発動に関する発表を受け、その法的妥当性に関する論考を発表している。
(滝本慎一郎)
(米国、ブラジル、EU)
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出典: www.jetro.go.jp
URL: https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/07/a51a4086c0759f78.html
時系列
- 2026-07-23 ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が、米国による追加関税措置を「保護主義的」と主張し、国内法に基づく報復措置の発動を示唆。
- 2026-07-24 米国通商代表部(USTR)が1974年通商法301条に基づき、日本を含む60カ国・地域からの輸入を対象に10~12.5%の追加関税の賦課を開始。
- 2026-07-24 ワシントン国際貿易協会(WITA)がポッドキャストを公開し、米シンクタンク専門家らが301条関税措置の内容や今後の焦点を解説。
主な数値
| 追加関税の対象国・地域数 | 60カ国・地域 |
|---|---|
| 追加関税率の範囲 | 10~12.5% |
| スイスに対する追加関税率 | 12.5% |
| バングラデシュ・パキスタンに対する追加関税率 | 10% |
この事例から確認すべきポイント
米国通商代表部(USTR)による301条関税発動は、強制労働問題への対処を名目としつつも、多くの専門家からトランプ政権の関税政策や交渉戦略の手段として用いられているとの見解が示されています。特に、強制労働リスクが高いとされる国よりもスイスへの関税率が高い点が指摘され、措置の実態反映への疑問が呈されています。法的妥当性についても専門家の間で意見が分かれており、訴訟の可能性や大統領権限の濫用への懸念が示唆されています。各国・地域の反応は異なり、ブラジルは報復措置を示唆し、EUは自国の規則を強調しつつも一部合意に準拠していると評価しています。この事例は、国際貿易における関税措置が、その名目とは異なる政治的・経済的意図を持つ可能性を示唆しており、企業は貿易政策の背景にある真の動機を見極め、法的・政治的リスクを評価する必要があります。また、国際的な貿易紛争が自社のサプライチェーンや市場に与える影響を継続的に監視し、多角的な情報源から動向を把握することが重要です。特に、強制労働問題のような人権に関わるテーマが貿易措置の根拠とされる場合、企業のサプライチェーンにおける人権デューデリジェンスの強化が求められます。
公式出典
更新履歴
公開日: 2026-07-31
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