経済・産業トレンド 改正案を発表

欧州委、実質的な緩和に向けたEU ETS改正案を発表、企業の脱炭素化負担を軽減

欧州委員会は7月17日、EU排出量取引制度(EU ETS)の改正案を発表。2030年温室効果ガス削減目標達成に向けた排出上限削減率を緩和し、企業の脱炭素化負担軽減を図ります。改正案の柱は、排出上限削減率の引き下げ、無償排出枠の延長、新規排出枠発行の枠組み導入。一方で、自治体廃棄物焼却、海運、航空便の一部などETS対象セクターは拡大されます。企業向け脱炭素化支援を強化しつつ、無償排出枠付与の条件として脱炭素化計画策定と投資も要求。本改正案はEU理事会と欧州議会で議論の紛糾が予想されます。

この発表の要点

企業・自治体への影響

EU域内で事業を展開する製造業、海運業、航空業、廃棄物処理業などの企業は、排出量取引制度の変更によるコスト構造や競争力への影響を評価する必要がある。特に、新たにETS対象となるセクターの企業は、排出量管理体制の構築や脱炭素化計画の策定が急務となる。EU加盟国の政府・自治体は、ETS収益の配分と産業脱炭素化への投資戦略を見直す必要がある。

対応すべきこと

対象部門: 経営者 総務 法務 広報 経理

対応期限:要確認

基本データ

企業・団体 欧州委員会
発表日 2026-07-17
分類 経済・産業トレンド

発表された内容

2026年07月29日

欧州委員会は7月17日、EU排出量取引制度(EU ETS、注)の改正案を発表した(プレスリリース)。改正案は、2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標(1990年比で最低55%削減)の達成に向け大幅に引き上げられた排出上限の削減率(2022年12月20日記事参照)を緩和するものである。環境・人権規制(2025年12月16日記事、2026年5月7日記事参照)の簡素化から始まった域内産業の競争力強化に向けた規制緩和の流れが、欧州グリーンディールの中核であるGHG排出削減規制に及ぶことになる。欧州委は、改正案が2040年目標(2025年12月16日記事参照)に整合すると強調するものの、グリーンディールの基幹規制の緩和策であるだけに、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で議論の紛糾が予想される。

改正案の柱となるのが、毎年の排出上限の削減率の引き下げだ。現行法では排出上限が毎年4.3%、2028年以降は4.4%の割合で削減されるが、改正案では2031年以降は3.7%、2036年以降は1.7%へと引き下げる。現行法では、2039年までに新たに発行される排出枠がゼロになると想定されているが、改正案では2040年以降も排出枠の新規発行が継続される。また、無償排出枠については2030年代後半まで延長する。延長期間はセクターごとに異なるが、大部分のセクターで2038年まで延長する。これらの改正により、企業は脱炭素化において負担が軽減され、時間的猶予を得ることになる。

さらに、新たな排出枠の発行を可能にする枠組みも導入する。域内で実施される250メガトン分の永久的な炭素除去(2024年3月1日記事参照)をETSに統合し、その分の排出枠を発行する。また、2036年以降に域外のカーボンクレジットを購入し、最大2%分の排出枠の追加発行を可能にする。新規発行の拡大により排出枠の価格の押し下げ効果が期待される。

一方でETSの対象セクターは拡大する。自治体廃棄物焼却については、2031年から段階的にETSに組み込み、2034年から完全導入する。海運については、対象となる一般貨物船舶の総トン数要件を5,000トン超から400トン超に引き下げる。欧州経済領域(EEA)内外を運航する航空便については、域内空港発で域内最大の空港から5,000キロ以内に位置する域外空港着の航空便に限定し適用する。

企業の脱炭素化向けの財政支援も強化
欧州委は、企業向けの脱炭素化支援も強化する。EUの財政支援策として、1,000億ユーロ規模の産業脱炭素化銀行を立ち上げ、うち300億ユーロを投資ブースターとして2030年までに実施する。また、ETSの収益全体の4分の3超となる加盟国への配分額のうち対象セクターの脱炭素化投資に充てられる割合はごく一部にとどまっていることから(2026年2月18日記事参照)、加盟国に対し配分額の5割を関連投資に充当することを求める。これらを合わせると2030年までの投資額は1,000億ユーロ超が見込まれる。

一方で、企業に対しても、2031年から無償排出枠の付与条件として、脱炭素化計画を策定した上で、無償排出枠と同額を脱炭素化事業に投資することを求める。

(注)詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEUETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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欧州委、実質的な緩和に向けたEU ETS改正案を発表、企業の脱炭素化負担を軽減

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出典: www.jetro.go.jp
URL: https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/07/057bd6183ff35124.html

時系列

主な数値

排出上限削減率(現行) 毎年4.3%、2028年以降は4.4%の割合
排出上限削減率(改正案) 2031年以降は3.7%、2036年以降は1.7%へと引き下げる
産業脱炭素化銀行規模 1,000億ユーロ規模
産業脱炭素化銀行投資ブースター 300億ユーロ
加盟国への配分額の関連投資充当割合 5割を関連投資に充当すること
2030年までの投資額見込み 1,000億ユーロ超
海運対象総トン数要件(現行) 5,000トン超
海運対象総トン数要件(改正案) 400トン超
炭素除去統合量 250メガトン分
域外カーボンクレジット追加発行上限 最大2%分

この事例から確認すべきポイント

EUの脱炭素化政策「欧州グリーンディール」の中核であるEU ETSの規制緩和は、企業にとって脱炭素化への時間的猶予と負担軽減をもたらす可能性がある。排出上限削減率の引き下げ、無償排出枠の延長、新規排出枠発行の枠組み導入は、排出枠価格の安定化や企業の投資計画に影響を与える。一方で、自治体廃棄物焼却や海運、航空便の一部などETS対象セクターの拡大は、これまで対象外だった企業に新たな排出量管理の義務とコストを発生させる。財政支援強化と同時に、無償排出枠付与条件として脱炭素化計画策定と投資を求める点は、企業に自主的な脱炭素化努力を促すものであり、単なる規制緩和ではない。改正案はEU理事会と欧州議会で議論の紛糾が予想されており、今後の動向を注視する必要がある。

公式出典

更新履歴

公開日: 2026-07-29

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